まずはじめにご報告があります。
当院にも整形外科用のパワーツールを導入しました。
これにより今まで対応できなかった整形疾患を治療できるようになりました!
現状ではまだ十分な設備が整っていないため、対応できる外科疾患には限りがあります。それでも一歩ずつできることを増やし、大切なご家族である動物たちの治療につなげていきたいと考えています。

以上、ご報告でした。
ここからが症例紹介です。
猫の股関節脱臼は、全脱臼の中で90%を占めるとされており、メインクーンやノルウェージャンフォレストキャットなどの猫種では先天性の股関節形成不全による股関節脱臼が報告されていますが、ほとんどは交通事故など外傷が原因となります。
股関節が脱臼すると、地面に足がつけなくなり強い痛みをしますようになります。全体の70%の猫は大腿骨が上側に脱臼します。
股関節の脱臼は、触診と単純レントゲン検査で診断します。
治療は、非観血的整復と観血的整復があります。
非観血的整復は、外科的な切開を行わない整復で用手にて脱臼した股関節をはめなおします。過去の文献では治療の成功率は、51%と報告されており、そのほとんどは整復した翌日に脱臼しています。成功率を上げる方法として脱臼を整復した足を体に引き付けるような包帯固定法がありますが、猫では活動性や包帯による皮膚損傷などで中々許容されない場合が多いです。
観血的整復は、基本的には非観血的整復が成功しなかった場合に行います。外科的に切開して行う整復法です。トグルピン法や経関節ピンニング法が報告されており、70〜80%の成功率が報告されています。
もう一つの方法としては整復するのではなく、この関節自体を置換するもしくは無くす方法があります。置換する方法としては人工股関節置換術がありますが、最近出てきた治療法で、術者の高い技術力と経験が要求されますので、専門施設での実施が必要です。関節を無くす方法としましては、大腿骨頭頸切除術(FHO)があります。脱臼した場合、骨頭と腸骨が擦れることにより痛みが生じるため、骨頭を切除してその擦れる部分を無くす治療法です。術後多くの場合、十分ではありませんが良好な機能と疼痛緩和が得られるとの報告があり、またインプラントを入れるわけではありませんのでほとんどの場合再手術がありません。
今回、事故により外傷性に股関節脱臼した猫さんに関してご紹介します。
当院を尻尾の外傷と左後肢跛行で受診されました。尻尾は皮膚が裂けて大幅にずれており、左股関節には伸展痛が認められました。血液検査に異常はありませんでした。レントゲン検査では、左股関節の脱臼と尻尾は尾椎の脱臼が認められました。

まずは、非観血的整復による股関節脱臼の整復と尻尾の皮膚裂傷の縫合を行いました。股関節の整復は容易であり、伸展屈曲を繰り返すことで股関節間にある物質の除去に努めました。術後包帯も検討しましたが、下半身に外傷があること猫の活動性により実施しませんでした。

縫合部の感染コントロールと生着そしてケージレストに努めましたが、傷は離開し、左股関節は再度脱臼しましたので、飼い主さんと相談の結果1ヶ月後に断尾手術と大腿骨頭頸切除を行いました。



術後の経過は良好で、退院後も元気に走り回っています。
整形外科の分野では特殊な器具が必要になることが多いため、まだすべての症例に対応できるわけではありません。ですが、少しずつ対応できる範囲を広げ、治療の選択肢を増やしていきたいと考えています。大切な家族である動物たちが、また笑顔で走れるようになることが私たちの願いです。